shojiの春は来るのでしょうか?

イーハトーブ幻想 ? KENJIの春 [DVD]

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アヴェ・マリア

アヴェ・マリア

この作品の手触りって、ジャン=リュック・ゴダール(JLG)の90年代の作品、特に『JLG/JLG』に近いものがあります。
杉井ギサブロー――「アニメ屋」の放浪家の第一人者(河森も中国へ放浪したことがある)。そしてメガネ――が『銀河鉄道の夜』をアニメ化するときに、ますむらひろしの猫を使いましたが、この『イーハトーブ幻想』でもますむら猫が使われております(アニメのデザインは、後に『lain』、河森作品では『地球少女アルジュナ』のキャラデザインをまかされる岸田隆宏)。
宮沢賢治の作品は読むと時間を超越した間隙=「幻想第四次」に誘われて、作中の有象無象に触れる感じがしますが、『イーハトーブ幻想』でも作中時間も見ている側の時間も解らなくなるような映像表現になっています。
JLGは自分の映画の試みを「シネ・エッセー」(書くように撮る、読むように撮る、の繰り返し)と言っておりましたが、『イーハトーブ幻想』は「シネ・エッセー」に接近し、「ケンジ」の「エッセー」を、他の「宮沢賢治」の「ドラマ」を撮った映画では出来なかったけれど、初めて観客に体験させたのではないのだろうか。

冒頭の、降雪と雲空と景色が立体的に溶け合い、ケンジとトシの別離が展開されるシーンは、上々颱風の『アヴェ・マリア』と合わさって壮絶ですね。
上々颱風といえば、高畑勲が『平成狸合戦ぽんぽこ』で使っていましたね。
河森さんにとって、高畑勲の存在は、作品ネタが良く被る宮崎駿以上に大きく、「自然と放浪」を数多く描いてきた先駆者であり、『アルジュナ』では『火垂るの墓』のモチーフが随所にサンプリングされ、『マクロス・ゼロ』のモチーフもまた『ホルスの大冒険』からとられている。

河森正治の作品は、面作りとかアイディアは理系のセンスですが、やろうとしていることは文系のそれ(例えば、繋がらない要素を強引に結びつける『アクエリオン』の作劇方法)という、いい意味で「文学的」なものが機能していると思う。

あと、『イーハトーブ幻想』では、宮沢賢治の人生と同時に、河森さんの半生が紛れ込んでいますね。
「ケンジ」の父は、富野由悠季宮崎駿(やはりメガネ)だ、「カナイ」は庵野とか美樹本さん(もちろんメガネ)と重ねられる気がしますね。そして、トシを『山田君』以降直接作品を制作しなくなった高畑と見る。