出崎を語るときは最も「アニメ様」らしい。

WEBアニメスタイル | アニメ様365日 第52回 『あしたのジョー2』(TV版)

映像美に関して印象的なのは、ジョーがテンプルを打てないで苦しんでいる頃の事だ。出崎監督は、ジョーの嘔吐物を、透過光でキラキラと光らせた。これはインパクトがあった。当時、ツービートのたけしが「だって、ゲロが光るんだぜ」と漫才のネタにしたくらいだ。勿論、単純に美しく描きたいと考えて、透過光で光らせたわけではないだろう。出崎監督には他の演出意図があったと思われるが、それよりもまず、ジョーの何かを表現するのに、嘔吐物すらも使おうとしている点に注目したい。
 物語の途中で、バシンと画面が止まって、セルだったキャラクターがイラスト調の静止画になる。それは出崎監督が得意とする「ハーモニー」と呼ばれる手法だ。あえて、絵を止める事によって、そのドラマやキャラクターの印象を強めるわけだ。『あしたのジョー2』ではハーモニーを使ったカットは非常に多い。数えたわけではないが、全出崎作品の中で、最もハーモニーの頻度が高いのが『あしたのジョー2』だろう。しかも、それが効いていた。ジョーのパンチが炸裂し、絵が静止画になり、♪チャチャンチャ、チャンチャ、チャンチャーンと曲がかぶる。その瞬間が、背筋がゾクゾクっとくるほど格好よかった。映像自体もいいのだが、やはり演出のセンスに感動していたのだろう。選曲も素晴らしかった。『あしたのジョー2』のフィルムを、シャキッとしたものにしていたのは、鈴木清司の選曲の力でもあるはずだ。

残念なのは、シリーズ終盤になって、ビジュアルのテンションがやや落ちてしまう事だ。実は『あしたのジョー2』は、同時進行で同じスタッフが劇場版の制作をしていた。劇場版『あしたのジョー2』の公開は、TVシリーズ放映中の1981年7月18日だった。制作の進め方も複雑で、劇場版の序盤から中盤までは、先行して作られていたTVシリーズの素材を使い、逆に、TVシリーズ終盤は、劇場版で新作した素材を使っている。TVシリーズと劇場版の同時進行という信じられない制作状況が、仕上がりに影響を及ぼしたのだろう。ただ、ファンであるがゆえの、贔屓の引き倒しであるのは分かっていて言うが、ジョーがハリマオ戦前後で「野性を失ったのではないか」と言われ、パンチドランカーの疑いが浮上していく展開に、あるいはホセ戦を前にしたしんみりとしたドラマに、制作的な体力が落ちていく感じが、不思議にフィットしているように見える。物語とフィルムの印象が、シンクロしているように思えるのだ。ビジュアルのテンションが落ちた事すらも、意味があるのではないかと思えてしまう作品だった。

アニメージュ オリジナル」2号の出崎・宮崎比較の記事も末尾もキレがあったなぁ。