宇多丸の「少林少女」評。

ライムスター宇多丸の「マブ論 CLASSICS」 アイドルソング時評 2000~2008

ライムスター宇多丸の「マブ論 CLASSICS」 アイドルソング時評 2000~2008

 宇多丸の『少林少女』評を聞く(リンクはこちら)。
 以下はラジオの雑記。
●MCだけでなくリスナー泣かせの企画「シネマハスラー」。今回のリスナーの期待の地平は、「『少林少女』VS『カンフーくん』、どっちが地獄行きか?」
●『少林少女』に出ている人は誰も得をしていない。観る人もね!
●こんなマッドシネマを撮った本広克行が、未だに『踊る2』で興行収入日本一監督なのが許せない!
●ちなみに宇多丸は『踊る2』を『カンフーくん』鑑賞以前の評価で、「生涯ワーストワンの金字塔、輝け」としていた。
宇多丸の為に二度『少林少女』を観たリスナーは、もちろん『カンフーくん』派。「ウンコ味のカレー、カレー味のウンコ」どっち? に対する答えの意味で。
●さて、宇多丸の答えは…… 「貶すって決め付けてるでしょ? 切れ芸を期待していたら大間違いだ! 僕はあの映画のクライマックスで癒されたんです(スタッフ(笑))。僕は清い人間になったんです。 <宇宙がキラキラ> みたいなのを聞いていたら、心が清くなったので、がんばって褒めてみたいと思いますよ。ごめんな! 期待に答えなくて」 ……褒め殺しですか!
●「まず観客の皆さんがこの映画を見ていて、全部どうでもいいよ!ってことをずぅーと思うんですよ。どうゆうことかというと、登場人物のすべてが何の為に何をしたいのか最後までさっぱり解らないんですよ。これは、ある意味、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』にも通じる、現代の不条理性みたいなものを、新しいストーリー・テリング……というわけではないんですけど、『ゼア・ウィル』は明確に資本主義の不条理を描こうとするんですけど、『少林少女』は別に不条理を描こうとしているわけではないんですね、にも関わらずですよ、登場人物の行動が全然意味が解らないから、不条理が浮かび上がってしまうって、こっちのほうが上手じゃね?(スタッフ(笑)) 不条理映画としては、逆にすごくね、みたいな」
●「どんだけ不条理かというと、まず桜沢凛@柴咲コウ少林拳を広めてどうしたいのかまったく解らない。道場もすぐ再興してしまうし。モトネタの『少林サッカー』には、「人生の負け犬」というのが主人公たちに負わされていて、それを跳ね返す為に「少林拳」に賭けるという動機付けがあった。桜沢凛は少林拳を広めるためにラクロス部に入るんですけど、『少林サッカー』っぽくするだけなんですよ。それ以上の意味は無いんですよ。これも新しいですよね。『少林サッカー』って何年前の映画だ!ってのもあるし、それをやってるっぽく見せるのに意味があるかっていうのを考えると、そこ食いつきよくねえぜって思うのを、今あえてやってしまうのは、新しくね?(スタッフ(笑)) 」
●「新しくね」って何でも言えるじゃん、というスタッフのツッコミが!
●「伏線を回収するなんて古臭いことなんてしないんです。言いっぱなしなんです。あの件どうだったっけ、知らね? このやりっぱなしっていうのが、ハリウッド型の、伏線回収、よく出来た脚本ってのが古いって事だよね。いいんですよ、言いっぱなしで!理由なんてねぇんだよ。」
●岩井拳児江口洋介のキャラ設定、新しくね…… ポカーンですよ。
●「大場雄一郎@仲村トオルのキャラ設定がある意味早いんだ! 『カンフーくん』と結構かぶってるんだ。悪の教育者に、さらに『スター・ウォーズ』のフォースの設定も織り込まれていて。あれ、これ、『カンフーくん』早くも取り入れているよ。『カンフーくん』とかぶってる、スゲーみたいな。ある意味、最先端映画『カンフーくん』を。最低のご都合主義も同じようにかぶっている。逆にすごい。カードがそろった感じ」
●「『少林少女』が語り口としてどういう問題があるのか…… ちがう、ちがう、どういうところが新しいかと言えば、すべての台詞、すべてのシーンが記号的表現…… 記号的表現を並べていれば、観客が解ってくれるだろう。という、性根の腐ったきった考え方で出来てるんです。要は、それらしい台詞を、それらしいテンションで、それらしい音楽と一緒に出すと、観客はそれらしい場面として、受け取ってくれるだろう…… 例えば、ポジティブっぽい事、それ自体には意味が無いんですけど、ポジティブっぽいことを言って、ポジティブっぽい音楽流して、ポジティブっぽいテンションでみんな(役者)がそうだよねって顔でウケければ、その場面はなんかポジティブっぽいことが起きている場面だっていうことを、観客が受け取るっていうことを、作り手が勝手にやっているわけです。腐りきった、この性根!…… 新しい〜 (スタッフ(笑))」
●「こんな腐っているの、作り手として新しい! 最先端ですよね!」
●「クライマックスは記号だけ。思いつきのまま「癒し」の記号が放り出される。それで悪が癒されちゃうんですよ!」
●「腐りきった性根の表現が極に達するのが、クライマックス。よく出来た構造ですよ! クライマックスに行くにつれて、腐っていくんですよ!」
●「クライマックスの腐りっぷりは、こんな腐臭を放つ、もう反吐が出そうな…… 吐が出ましたね、正直。これないですから。映画史を更新しましたよ。素晴らしい、最高ですね! 」
●『カンフーくん』がまだまともなのは、悪が逮捕されるところ! 仲村トオルがお咎めなしなのは、9/11的な殺伐さを表現しているんでしょうかね?
●『少林少女』が罪深いのは、金が掛かっていて、宣伝バリバリで、間違って足を運ぶお客さんを作る事! パッと見しょぼくないから、間違って観てしまって、「おい、こんな、実験映画なんて聞いてないよ」「これ、記号的なポストモダン映画」と驚愕してしまう。見た感じでウンコだと解る『カンフーくん』よりウンコ味のカレーの『少林少女』のほうが、悪の総量では勝っている。この映画の公開は、文化的レイプです。
●「現代日本映画の問題点を集約。素晴らしい映画なんですけど…… おススメしません! 悪のスパイラルを断ち切りたい!」
●来週の映画は、「ミスト」。絶望するなら、こっちで!